みつひめの日録

日々の記録。

映画と写真で見る芝居

[歌舞伎]勘三郎三津五郎の「らくだ」、勘三郎親子の「連獅子」、吉右衛門写真展

基本、芝居は生で見るもの、とずーっと思っている。とはいえ、今はもう見られない配役、映像でしか見えないものもある、というのもまた事実だ。
仕事に追われて、限られた時間で見たい芝居を見るとなると、生の舞台を優先していた。が、自分の裁量で時間が使えるようになって、「シネマ歌舞伎クラッシック第二弾」という東劇の特集上映のラインナップを見て、もう生では見られない芝居を映像で見てみようか?とふと思ったのが、シネマ歌舞伎を見始めたきっかけだ。
このラインナップの舞台は、NHKのDVDでも見られるのだが、自宅だとどうしても、宅配便のお兄さんがやってきたり、電話がなったり、ふと何かやらなきゃいけなかったことを思い出しちゃったり、と集中しにくい。映画館だったら、スクリーンは大きいし、音響設備も整っているだろうし、真っ暗な客席で必然的に見ることに集中するしかなくなるし、いいんじゃない?と思い、通し券を買った。面倒くさがりだが、前売りチケットを買えば、ムダにするのはもったいない、と、なんとか見に行く算段をするだろう、という思惑も。結局、第二弾と一緒にアンコール上映された第一弾も、全制覇となった。
そんなわけで、映画館で歌舞伎を見てみるというのも、アリだなということを確認できたので、月イチ歌舞伎の前売りセット券を購入したのに、気がつけば今日までじゃないか! しかも、朝しか上映がない!? ということで、あわてて最終回に滑り込み。最終回だからなのか、勘三郎さんの人気なのか、東劇でこんなに満員の客席は初めてだ。シネマ歌舞伎クラシックの時は、基本空いてたからなぁ。と思ったら、一二日まで好評につき、延長とのこと
「らくだ」は、舞台を拝見して、とにかく亀蔵さんのらくだっぷりの、あまりのインパクトに、他のことがすべてふっとばされていた、ということを今回、確認した。とにかく、勘三郎さんと三津五郎さまの、楽しそうなこと! ちょっとした言い間違いや失敗も、お互いにカバーしあって、笑いにもっていく、その息の合った、しかも程のいい舞台。「あー、もうこのお二人の舞台は、二度と見られないんだなぁ」という思いが沸き上がってきて、胸がしめつけられる。つい、涙ぐんでしまった…。ライバルだからこそ、の名コンビだったな。「らくだ」は、逆の配役でも見てみたかったなぁ…。そして、周りを固める役者さんたちが、皆さん、ステキだ。江戸の貧乏長屋の空気が、ちゃと感じられる。
「連獅子」は、その後もいろんな方のを見ているのだけれど、今のところこの「連獅子」を超える舞台には出会っていないなぁ、と思う。勘三郎さんが乗りに乗っている時期だし、子獅子たちが親獅子に「挑む」勢いが親獅子へのいい刺激になっていたのでは?と。後シテで、勘三郎さんだけが一畳台の上で花道の方を見込んでキマったところ、国立劇場のロビーにある六代目の「鏡獅子」の形にそっくりだ!と気づけたのは、山田洋次監督のおかげだ。それにしても、まだまだあと何回かは見られるだろうと思っていたのに…、とまたもやウルウルしてしまった。
監督の視点と、自分が見たいところが、必ずしも一致しないから「あ、もうちょっとカメラをひいてくれれば」などと思うシーンもあるのだけれど、逆に、自分の目では見ないだろうな、というところを見せてもらえるという利点もあるんだな。
そして、もう一つのお目当てである、吉右衛門さんの写真展に向かった。
ツイッターで、ご覧になった方の感想が流れてきて、開催を知った写真展だ。会場は、銀座のGUCCI。それにしても「なぜ、GUCCI?」と思ったら、東日本大震災の復興支援が、吉右衛門さんとGUCCIのご縁を結んだのだそう。一棟まるまるGUCCIというビルの七階のイベントスペースが会場だ。
大きなタペストリーのような全身写真がたくさん吊り下げられていて、結構「所狭し」といった感じもあるのだが、抑えた照明と音楽が、落ち着いた雰囲気を作っている。壁に展示された写真の一部には、吉右衛門さん自らが筆をとって背景的なものが描き加えられてもいて、絵心のある吉右衛門さんならではのコラボ作品となっている。多くは、楽屋に撮影場所を設えて黒バックで撮影したと思しき写真だが、楽屋や鳥屋での拵え中や、黒御簾からや、舞台裏で撮ったものも何点かあったし、衣装も二点、展示されている。
勧進帳」「四段目」「七段目」「熊谷陣屋」「お浜御殿」「一條大蔵卿」「法界坊」「河内山」「縮屋新助」「大物浦」「瞬間」「寺子屋」「車引」などなど、当たり役の数々に見下されている、というのは、不思議な感覚だ。それらの写真を見ていると、吉右衛門さんの舞台が蘇ってくる。
楽屋でくつろぐカット、「梅王丸」の丸絎の帯をお弟子さんたちが五人がかりで締めているカット、知盛が身を投げた瞬間を裏から捉えたカット、などなども印象的だ。
こちらは、九月一五日まで開催とのことなので、銀座でお時間がある方は、ぜひ!